卒業WSを進めるについて

卒業WSにおいての最初の壁は、やはりテーマ決めでしょう。
「何をしたら良いのだろうか?」「どこに着眼したら良いのだろう・・・?」
これらは、例年の学生達も皆が悩んだところです。そして次に
「こんなテーマじゃありふれてる」「どうやったらオリジナリティーを出せるんだろう?」
というような思考に陥ります。
まずは卒業WSの意味合いを理解した上で、正しい思考の流れの中で進めていくようにしましょう。

卒業WSの意味
卒業WSで創り出す作品には、大義が必要です。ただ単に「カフェを創りました」的な発想では意味が無く、そこには問題意識をベースとした問い掛けから、それに対する何らかの解が提示されるような一連の流れが求められます。
授業の課題やコンペ等においては、通常は条件設定等の中に何らかの問題意識を誘発させる為の仕掛けが組み込まれていますが、その問い掛け自体を自分自身で行う事に卒業WSと通常の課題との大きな差があり、その問い掛けの部分に思考を巡らせる事で『空間を創り出す意味の根源』にまで立ち返る事に、この2年間の集大成である卒業WSとしての意義があるのです。
「問い掛け」とは「理想と現実のギャップ」のようなモノと捉えれば良いかもしれません。「なぜ、こうなのだろう?」「このようにあるべき」「この方が便利」・・・社会に対するこの「問い掛け」が無いのであれば、卒業WSとしては、そこに空間を創り出す意味が無いという事を示しています。「綺麗なモノをより綺麗に・・・便利なモノをより便利にする」というような思考は、卒業WSに求められているものではありません。
「空間を創り出す意味の根源」、それを背景に抱く事が求められます。

一般的に「デザイン」という言葉で捉えられている「造形デザイン」的意味合いの作業は、副次的な行為です。その「デザイン」が無ければ存在しない、或いは機能しないというような空間やモノはまずあり得ないと言っても良いでしょう。その副次的行為を卒業WSの中心に据え付けてはダメという事です。中心はあくまでも主たる行為でなければいけません。
要するに、「店舗デザインをする」とか「住空間のデザインをする」というような単なる造形デザイン行為を中心とするのではなく
「なぜ、この場所にこのような店舗が必要なのか?」
「カフェ空間は、単なる飲食空間ではなく、もっと地域的に別の役割を担う事が出来るのではないだろうか・・・?」
「今の住空間には、どんな改良の余地があるのか?」
「家の中にも、大人の空間と子供の空間ってあるんじゃないだろうか・・・?」
等というような「空間」に対する様々な問い掛けをベースに、「そのデザインをする事自体の意味合い」となる「主たる行為」を見つけ出し、それを中心としたプレゼンテーションを構築しなければならないという事なのです。
加えて記載しておくと、本来の「デザイン」という行為は決して「造形デザイン」の部分だけを示すものではなく、もっと幅広い内容を包括した言葉です。例えば空間を創り出す業界における「デザイン」行為とは、造形デザイン以前の、そのモノ自体を創り出す意味合いや、そのモノが成立する為のシステムづくり等も含め、そのモノを成立させる為の概念・意味合いを創り出すところから含め、一連の流れ全てを「デザイン」と称するのです。
この卒業WSでは、この「デザイン」を行う事が必要です。
従って、やりたい事をやれば良いという訳では無く、問い掛けあっての卒業WSであるという事は肝に銘じておいて下さい。

テーマと主題
事前準備指示書においては紙面の都合上「テーマ」と「主題」とを同意語として記載をしていましたが、本来は別に分けて考えるべきものなので、ここではもう少し詳しく解説をしていきます。
卒業WSで創り出す作品には、当然の事ながらオリジナリティーは必要です。その事を意識するあまり、「テーマ」を考える時点でどうしても「オリジナリティー」という事に意識が縛られてしまいがちですが、作品のオリジナリティーというモノは「テーマ」自体にあるのではなく、それに対する「問いの立て方」や「空間との関係性への導き方」、或いは「そこに至るプロセス」にあるものなのです。従って、「テーマ」自体は、ありふれたものであっても構いません。身近にある根源的なもの・・・「自然」「エコ」「都会」「コミュニティー」「地域活性」「愛」「平和」・・・普段から聞き慣れているこのような言葉をベースとしたもので構いません。
思考の順番としては、むしろ「テーマ」の前に、「主題」を考える方が自然かもしれません。
では、「主題」とは一体何か?社会に潜む様々な問題・・・それが「主題」と言われるものであり、デザインを展開していく元となるものです。そしてそこから適切な「問い」を切り出す事で企画がスタートします。
その「主題」の意義を、より包括的に捉えるモノとして、その後に「テーマ」が設定されれば良いでしょう。
両者の違いが少々分かり難いかもしれませんので事例を挙げると・・・


 「主 題」: 震災時の仮設住宅における独居老人の孤独死
 「テーマ」: 震災コミュニティーによる地域互助

 
 「主 題」: 廃校となる小学校の再利用
 「テーマ」: 土地の記憶の継承


主題になるという事は、そこに何らかの解決すべき問題があるという事であり、その問題意識により見出された主題の解決の方向性を示すモノが「テーマ」と捉えれば良いかもしれません。

12月に入りました。
アッと言う間に年末となります。どんどんと企画を進めていきましょう!